「痛ッ…竜崎…お前何でこんな仕掛け本部に作ってるんだよ!!」
叫んだと同時に気づいた。
「!元に戻ってる」
視界に映っているのは、竜崎とミサ。僕はいない。
「良かったですね…次は私が月くんになると思っていたのですが狙いが外れました…。
ちなみにこのトラップはキラ対策です」
「キラは泥棒か何かか?」
『僕がお前で お前が彼女で 彼女が僕で(完)』
まぁ何はともあれ、無事に戻れて良かった。
ふとミサに目をやると、金髪が一部赤毛に…。
「ミサ、頭から血が出てるぞ!?大丈夫か!?」
「えっ?…きゃああぁぁぁアぁ!!」
シャンデリアで3mm程 頭4箇所を切ったらしい。
他も肩口の皮が擦りむけたりしている。
命に別状はないけど、少しビビる。
騒ぐミサをなだめながら僕はあることに気がついた。
竜崎も少し手を擦りむいている。
だが、僕だけは無傷だ。
そして、先程まで僕は竜崎になっていた。
何もしなかった場合、今の竜崎のように軽傷を負う。
竜崎はミサになっていた。
今 大怪我(?)を負うことになっていたのは、
本来なら竜崎ということになる。
僕は今傷ひとつ付いていない。
僕の負うはずだった傷は全部ミサにいっている。
ミサになっていた竜崎が、庇ったから。
でも、庇ったのは、僕になっていたミサ…。
「一応消毒しておきましょう、松田叩き起こして下さい」
「マッツーにやらせるのぉ〜!?なんでー!!?」
「月くんは私の手当てをするからです」
こんな深夜に起こされる松田さんは気の毒だが、
いつも役に立たないからこれ位別にいいだろう。
色々こじつけてミサを追い出した。
「…何で、あんなに怪我してまでミサを庇ったんだ?
他の男なら『女性だから』でわかるけど、お前だからわからない」
僕は竜崎の右手に包帯を巻きながら訊いた。
「…でも、月くんの体でしょう?」
「戻る自信があったのか」
「というより、先程言ったように私が月くんになるつもりでしたので…」
「自分のためかよ!!最悪だなお前!!」
予想より斜め上悪い回答が返ってきた。
あと1つ、答え合わせを必要とする問題がある。
「さっき、お前『今度は3人で、相手のことを考えずに』って言ってたよな」
手元を見ていた竜崎が顔を上げた。
何も言わないから、そのまま続ける。
「…ミサのこと考えてたんだろ、何で…?」
竜崎はしばし黙っていたが、そのうち深く息を吐き出した。
僕は目を合わせるのが嫌で視線を外す。
「これを言うのは少しプライドが傷つくのですが…」
いきなり腕を引かれて、竜崎に抱きついてしまった。
顔を上げて竜崎を見ると
「あの時、弥が羨ましかったんですよ」
僕の背に手を回して言う
「…何の気兼ねも障害も無しに、月くんを求められるでしょう?」
いつもと何が違うんだとは言えない。
彼が言っているのは、根本に根付いた事のことだから。
容疑者相手に全部さらけ出せない。
結局、殺人鬼だと疑っているのに変わりない。
だから 僕が夢で苦しんでいても、何もできないし しない。
でも、少し安心した。
その言葉が本当なら、疑いが晴れたとき、僕らは近づける。
何の隔たりも無しに…