辺りは一面の闇
「竜崎、僕は僕だ…キラじゃない」
ーーー随分と面白い嘘をつきますねーーー
「なんで嘘だって断言できるんだ!!」
僕は竜崎の腕を掴んで振り向かせた。
すると竜崎は汚いものでも見るかのような目で僕を見ながら
ーーーお前のこの手は何だ?−−−
僕の手を掴み返して
ーーー殺人鬼がーーー
僕の手は血で真っ赤に染まっていた


『僕がお前で お前が彼女で 彼女が僕で(4)』


…嫌なこと思い出しちゃったな…。
そんな事、気にしてもどうにもならないのに。
不安になるんだ。
目覚めた時、竜崎は起きていた。
起きて僕をその腕に抱いていた。
うなされていた僕を、ただ見てただけ。
…結局僕は容疑者。
何か証拠になることを口走るかもしれないと思って監視してたんだ。
…そんなこと、わかりきってるのに…。

考えちゃダメだ

今、僕は竜崎の姿で、竜崎のような姿勢で捜査をしているのだが、
足や腰に負担が掛かる。思考がそれて行く。
僕にとってこの座り方は推理力60%減だ
竜崎はさすがにミサの姿であの座り方をするわけにもいかず
かと言ってミサの姿で捜査することもできないので
僕の横に黙ってたたずんでいた。やけに姿勢が悪いが。
ミサはミサで暇そうで、たまに僕にちょっかいを出してくるが、相手にしなければそのうち止める。

まぁ、今の所誰もそれほど不自然な振る舞いをしてはいない(つもり)。
しかし、ふと思い当たったことがある。

僕はあの時、竜崎と近づきたいと思っていた。
そして今僕は竜崎になっている。
ミサは僕に近づきたいと思っていた。
そしてミサは今僕になっている。

…じゃあ、竜崎はミサに近づきたいと思ったのか?
だから今ミサになってしまっているんじゃないのか?

嫌な気持ちが溢れてくる。
ミサに嫉妬してどうするんだ。
竜崎は今、何を考えているの?
もしこの仮説が正しいのなら、元に戻るヒントになるかもしれない。
でも、ミサや他の人(特に父さん)に、僕が竜崎のことを考えていたなんて知られたくない。
竜崎だけにこの事を伝えられないか?
だけどこの仮説が当たっているのは嫌だ…。

「竜崎さん、この漢字なんて読むの?」
いきなり竜崎が話しかけてきた。
「え…?あ、どの漢字ですか?」
すると竜崎はパソコンにタイピングしだした。
「このような文章で使われていたのだけど…」
ミサは漢字なんかわからないから興味をもたないし、他の捜査員も特に気を止めない。
だが僕には伝わる。裏の意図が。
お前にこんな初歩的な漢字がわからないわけないだろ。
それよりも注目すべきなのはその例題文。
やけに長い。
これは、16進数言語学空力学とその他もろもろを組み合わせた暗号だ。

「わかった?」
「えぇ、読み方は『なむふかしぎこうにょらい』です」
意味はわかったよ。
だけどこの選択センスはどうなんだ?

だけど。
なによりも。
竜崎も同じ仮説を出してきた。

意味は後でじっくり聞いてやる。

僕らは休憩と称して別室へ向かった。

「え〜と…じゃあ、ミサは自分のことを考えていればいいのね?」
「はい、自分がいかに尊くかけがいの無い…女性だと思ってください」
『バ』って何?バカの『バ』?
「それで、月くんは自分に自信を持って…」
返事しなさいよ!!

竜崎のメッセージには部屋を移動するところまでしか書かれていなかったが

ーーーサッキノカセツニモウヒトツヨウソヲクワエマスーーー
(さっきの仮説にもうひとつ要素を加えます)
さっきの仮説って、「頭をぶつけたことによる人格変換」のことだよな。

ーーーコンドハサンニンデ、アイテノコトヲカンガエズニーーー
(今度は3人で、相手のことを考えずに)
じゃあ、あの時お前ミサのこと考えていたんだ。

ーーートウブニショウゲキヲアタエマショウーーー
(頭部に衝撃を与えましょう)

…でも、また先ほどのようにお互い頭をぶつけ合う様子はない。
どうする気だ?竜崎…。

「では月くん、ミサさん、ちょっとこちらへ寄っていただけますか」
「ん…これでいいか?竜崎」
竜崎は答えずいきなり指を鳴らした。
すると次の瞬間シャンデリアが降ってきた
「うわぁぁぁぁぁぁ!!?」
いくらなんでも危ないだろ!
僕らはお互いの頭を打ち合った。


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