「ちょっと〜!!ライトにあんまり近づかないでよ!!変態!!」
視界が一瞬真っ白になる。
「そんなに近くはありませんよ?光の加減でそう見えるのでしょう」
そのすぐ後に、絹を裂くような音が轟く。
「うわ…今のは近かったな、竜崎」
「ほら!!ライトもそう言ってるじゃない!!」
「いや、そうじゃなくて」
先ほどから雷がひっきりなしに鳴っている。


『僕がお前で お前が彼女で 彼女が僕で』


まったく…今日の天気は、この夏最悪だな…。
ミサは僕と竜崎の間の距離が気になるようだが
僕は停電の方が心配だ。
補助電源がきくらしいので、システムの方は大丈夫。
でも、蛍光灯にまで電気を廻らす余裕があるかはわからない。
別に暗闇を恐れる歳でもないが…。

今、本部にいるのは僕と竜崎とミサの3人だけだ。
父や相沢さんは一旦家に帰ったが、この分では戻って来れないだろう。
えっ?松田さん?えーとたしかさっき
竜崎におやつのお使いを命じられて泣きながら雨の中外へ追い出されたな
まぁそれは別にいいとして。
なんだか嫌な予感がするんだ…。
この嵐のせいか?いや…違う…昨日見た夢のせいだ…。

僕を見てって叫ぶ自分。

本当の僕に気づいてって喚く自分。

でも、竜崎は僕の手を振り切って…。

起きた時には竜崎の腕の中にいたのに、遠くにいるように感じた。
ミサ、僕と竜崎の距離は君が思ってるほど近くはないよ。
近づけるのなら、近づきたい。
誰よりも、キラよりも……。

「たしかに、避雷針はありますが…近いですね…。怖いのなら、私にしがみ付いていいですよ月くん君」
竜崎の指が僕の顎をすっとなぞる。
ドキッとして、一瞬自分の考えがバレたのかと思ってしまった。
すぐに冷静になり
「僕は怖くない」と返す。

「だから!!月に近づきすぎだってば!!」
ミサが向こうのソファから立ち上がり、こちらへやってきて竜崎の髪を引っ張った。
「少しからかっただけです」
「誰をよ〜!?ミサ!?ライト!!?」
「ミサさんがあまりにも反応するので」
「キィィィ!!またミサをバカにしてェェェ!!」
…なんだか、ちょっと疎外感を感じる…。

その時だった。急に辺りが暗くなった。
バランスを崩した竜崎とミサと巻き込まれた僕は、互いに頭をぶつけ合ってしまった。

すぐに電気は復興した。街はまだ暗いので、補助電源が働いたのだろう。
「つっ…2人共、大丈夫か?」
僕は竜崎とミサに声をかけたが、いつもより低い声が出てきた。
「はい、私は問題ありません」
ミサが無表情で答えてくる。しかし生気が感じられない。
「も〜う!イタ〜い!なんなのよぉ〜!!」
僕が片手を床につけてしなやかな動作で文句を言った。
・・・え・・・?僕・・・?
しばらく僕らは互いを見やった…。
ふと我に返り、僕は自分の姿に目を落とす。
そこには、骨っぽい手と、見慣れた不精な服装…。

「え…?おい…まさか…」
「どうやら…私たち、体が入れ替わってしまったようですね」
ミサの姿になってしまった世界の切り札がそう答えた。


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